Cello Repubblica ~チェロ弾き達のオーケストラ~



3連休初日の土曜の午後。東京では木枯らし1号が吹き、風が頬に冷たい。

古川展生さん、三宅 進さん、山本裕康さん、それに渡邉辰紀さんという錚々たるチェリスト4人がコンサートとして初めて一緒に演奏した。
この日がくるのを、今年7月からずっと楽しみにしていた。

開演前、プログラムの解説を読みながら思わず笑ってしまった。
この演奏会は山本裕康さんがずっと以前から、一度この4人で演奏会を開催したいと企画していたらしいが、各メンバーをそれぞれ面白いエピソードと秘話を含め紹介していた。
これが、すごい内容なので、ここではちょっと書くのを躊躇うほど。
というように、もうチェロの音が出る前から、この演奏会がとても和やかでリラックスした雰囲気であることが伝わってくる。

実際の演奏が始まると、想像していた以上の素晴らしさだった。
まずは、4名で「フィガロの結婚序曲」。
チェロ4重奏だからといって、テンポが遅くなるわけではない。
1stチェロは勿論だが、この曲はとりわけ内声と低音の刻みがすごく大変なのだ。
これを難なく弾きこなしてしまうからさすがだ。

チェロ4重奏には弦楽4重奏に通ずる面白さがある、と常々思っている。
というのも、各パートがソリストであり、伴奏であり、その駆け引きと対話がすごく面白い。もし、この「フィガロ」がチェロ12名とか36名とかで弾いたら、音の厚みや響きの重厚さは増えるかもしれないが、各パートのそういう駆け引きや対話が集団の中で隠れてしまい、むしろ面白みがなくなってしまう、と自分は思う。
「さあ、始まり!始まり!」と、フィガロが瞬く間に終わると、4名のチェリストも緊張感がとれ、ほっとした笑顔になった。

2番目には、三宅さんが登場。
ソロで「文楽」を演奏。まるで三味線を意識したような響きの曲。とても面白いが、もう一度聞いてみたいと思うほどではない。でも三宅さんも上手い。楽器の色がすごかった。
いかにもオールドという赤茶で見とれてしまった。自分は赤茶に弱い。

3番目には古川さんと山本さんで2重奏。
山本さん作曲の「ラヴィン・バロック」。解説によると、山本さんはこの曲をたった2日間で書き上げたそうだ。3楽章構成で2楽章にはバッハ無伴奏5番のサラバンドが使われていた。

4番目には、4人でポッパーの演奏会用ポロネーズ。
この曲はいつ聴いても各パートの難易度の高さに驚かされハラハラしながら聞いていることが多い。さすがにこのメンバーだとみんな難無くさらっと弾いてしまい、今日は安心して聞いていられた。初めてこの曲のよさが分かったような気がした。
1stは古川さん、すごく上手かった。

ここで休憩。

休憩後はハイドンのチェロコン1番。

チラシでこの曲を演奏することを知った時、4人(ソロ+伴奏3人)でどういう風に演奏するのか疑問だった。
でも実際の演奏はまったく違和感なく楽しめた。
はじめは1楽章だけかと思ったら、3楽章まで全部演奏してくださった。
ソロは山本さん、そして1stが辰紀さん、2ndが古川さん、3rdが三宅さん。
山本さんはすごく自然で素直なボーイングで低音から高音まで良く響き渡る。1楽章も2楽章もカデンツァが初めて聞く版のような気がした。ひょっとして山本さんのオリジナルかも。フィガロ同様、3楽章も一切手抜きない疾走感。
とばす、とばす。速い速い。すごい速さだ。
「こんなに弾けたら良いだろうな」「でも自分にはどんなに練習しても絶対に弾けないだろな」なんて思いながら、その超絶技巧に目は釘づけ。

山本さんのソロも凄かったけど、ヴァイオリンパートを担当された辰紀さんのテクニックと音の凄さにはもう唖然。
やはり辰紀さんはすごいチェリストだ。その凄さを聴衆に印象づけたのが、次のソロ。
Mサマー作曲の「Lo,How a Rose E’er Bloomy」。本邦初演とのこと。
「エサイの根より」というクリスマスキャロルを主題にしたジャズ風変奏曲。
まず主題を朗々と弾きはじめ、次にピッチカートで和音がはじかれ、その次にはチェロをまるで打楽器のように叩きながら左では弦をはじくという超絶技巧。でもこれがただ機械的でなく音楽としての流れがまったく崩れない。最後にまた冒頭の主題が朗々と歌われる。この曲が終わった時場内が一瞬シーンとした。

辰紀さんの演奏がすごいと思ったのは今年1月の東京フィル定期が最初。そのあと弦楽4重奏アルペジョーネ・ソナタを聴いたが、この無伴奏曲を聴いて辰紀さんの凄さと上手さを改めて認識した。

最後には、この日一番のプログラム。バッハのシャコンヌが演奏された。
1stは辰紀さん、2ndが古川さん、3rdが三宅さん、4thが山本さん。
最初の重厚なテーマが奏でられた時、あまりの美しさに思わず涙腺が緩んでしまった。
なんという響きだろう。
解説に「この曲を聴き、そして弾く為に私は生まれて来たといっていい」と山本さんが書かれていたが、それほどの思い入れがある曲だけに、今夜の演奏の白眉。
ほんとに凄まじかった。
最後の和音が場内に響き渡り消え去ると、しばしの静寂。
場内のみんながその凄さに圧倒されたに違いない。

曲の演奏だけではなく、合間には各人のトークがあり演奏会全体の雰囲気がとても和やかでリラックスして演奏を楽しむことができた。

今回が4人初の演奏会だったが、この4人のメンバーで2年に一度、いや一年に一度、これからも先もずっと聴きたいと思った。

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チェロ弾き達のオーケストラ
2008年11月1日(土)午後2時開演
浜離宮朝日ホール

チェロ:渡邉辰紀
    三宅 進
    古川展生
    山本裕康

モーツァルト「フィガロの結婚・序曲」
黛 敏郎  「文楽」
山本裕康  「ラヴィン・バロック」
ポッパー  「演奏会用ポロネーズ14番」
ハイドン  「チェロコンチェルト1番」
Mサマー  「Lo,How a Rose E’er Bloomy」
バッハ    「シャコンヌ」
アンコール  ビバルディ四季から冬2楽章


PS:休憩時には、ビールを注文しているかげみさんを発見。すぐに声をかけ、いろいろお話させていただいた。かげみさんのチェロ友お二人とも談笑。ここへmototyoさん、revさんも加わりさらに話がはずむ。
みなさん今日はどうもありがとうございました。
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by hideonoshogai | 2008-11-01 23:22 | チェロ | Comments(14)  

Commented by かげみ at 2008-11-02 16:56 x
hideoさま、昨日は私を見つけてくださり、ありがとうございました。
ビールを頼んでいたところを見つかってしまい、なおかつ、すっぴんでのお顔合わせに、超動揺しておりました。
再来週、父の手術があり帰郷しますので、その際に住所を聞いてみたいと思います。
Commented by ぶんちゃん at 2008-11-02 18:13 x
この演奏会、ずっと前からチェックしていたものの、
なにぶん失業中なので自粛したんですが、
hideoさんの記事を読んで、ちょっと後悔してます(泣
次回があるなら、今度こそ躊躇せずに行きたいです(笑
Commented by hideonoshogai at 2008-11-02 22:06
かげみさん、こんばんは。昨日は、こちらこそありがとうございました。実は開演5分前ぐらいに受付の前をちょっと通ったんですが、その時すれ違った方のコートの下のセーターがエメラルドグリーンだったので、「あっ、この方がかげみさん」とすぐ判りました。で休憩の時、ビール頼んでらしたのでこれは間違いなし(笑)、となった訳です。
お父様ご心配ですね。帰郷ということはお父様は会津で手術を受けられるんですね。○田病院、○央病院などスタッフは結構しっかりしていると思います。
Commented by hideonoshogai at 2008-11-02 22:10
ぶんちゃんさん、こんばんは。この4名の方がどうして一緒に演奏会を開催されるのか、その繋がりがわからなかったのですが、もう20年以上前から皆さんお互いに良くご存知なのだそうです。パンフには、20年前の逸話が書かれていて、これがまた凄く面白かったです。何時かはわかりませんが、また次回もきっとあると思います。
Commented by かげみ at 2008-11-03 03:21 x
私とビールはセットのようなものです(笑)
それでいて肝臓も尿酸値も正常なので、体に合っているようです。

私の父は10数人兄弟の末っ子、実家に居座る事も出来ず、流れ流れて、群馬県に落ち着き、現在に至ります。
実家を継いだ兄弟とは仲が悪かったようで、実家は素通り、会津に行っても、仲の良い兄弟の所にしか寄らないため、私には父の実家の住所がわからない、という事情があったりします。
手術がうまくいく事を願いつつ、ビール片手に書き込みしている、かげみでした。。
Commented by ogosyu at 2008-11-03 06:14
こんばんは~、とっても素敵なコンサートだったようですね。
チェロだけのコンサートって行ったことがないのでとても興味あります。たぶん、そういう試みがイギリスにはないのかも。あのお腹に響く音が4台も!考えただけでドキドキです!
hideoさん、またレッスン再開して今度は↑のみなさんと生演奏のコンサートかな?私は今日は2度目のピアノとの合わせでとっても楽しかったです。この前はイヤでイヤでしかたなかったけど、ピアニストが気心知れた人で、これからこのピアノとのデュオにはまりそうで、怖いです。。
Commented by mototyo at 2008-11-03 09:30 x
楽しいコンサートでしたね!それぞれの弾き方の個性もよくわかって勉強にもなりました。
面白い出会いもあったし!
次もあるようでしたら楽しみですぅ~!
Commented by hideonoshogai at 2008-11-03 21:58
かげみさんは、きっとアルコール分解酵素をたくさんもっているんですね。自分はアルコール全然だめ。缶ビール1缶ですごく酔ってしまう。演奏会の休憩でアルコール飲んだことありますが、いいBGMにすっかり眠くなってダメでした(笑)。

お父さまこれまでいろいろと苦労されたのですね。手術が無事終わるよう祈っています。
Commented by hideonoshogai at 2008-11-03 22:06
ogosyuさん、チェロ・アンサンブルはロンドンでも盛んだと思いますよ。以前にロンドンの主要なオケのチェロ奏者がチェロ・アンサンブルしたCDを見たことがあります。
ヴァイオリン4本では低音がないのでアンサンブルにはなりませんが、チェロ4本だとバッチリなんですよ。
こんど是非どこかで聴いてみてください。チェロ・アンサンブルにはまるのは間違いないです(笑)。
五十肩がだいぶ良くはなっているので(←とはいっても運動制限はまだあり)早くレッスンを再開してみたいです。
ピアノの伴奏があると弾きやすくなるし、曲の感じもだいぶ変わりますよね。オーボエのテストがんばってくださいね。

Commented by hideonoshogai at 2008-11-03 22:10
mototyoさん、ほんとにいろんな弾き方がみられて参考になりました。ああいう音を聴いていると、ホールの奥まで通る音が出せるようになりたい、と思います。山本さんのブログ情報では、将来的には全国ツアー、それが無理でも2回目は必ず開催ということになったそうですよ。
Commented by mototot at 2008-11-03 23:25 x
あーそれ読みました。2回目のほうが難しいと書いておられましたが、確かにそうですね。
↑ の曲、渡邉さんは、黒人霊歌風に弾いておられましたね。ピチカートもその雰囲気でした。
Commented by hideonoshogai at 2008-11-04 17:31
今回がすごく良かっただけに2回目をどういう企画にするか、難しいでしょうね。↑の曲いいですね。譜面もわかったので、アンサンブルの先生にいちど見ていただいてチェロアンサンブル用にアレンジしてもらう、ってのはどうですか?・・・で、それをみんなで使わせてもらう(←なんてダメかなぁ)
Commented by mototyo at 2008-11-04 20:58 x
教室の先生は編曲にたけてるから、のせればもちろんやってもらえそうだけど、我々が弾くと、たぶん、単調になると思うですね。
わたしは密かにシャコンヌを狙っとりますワ。ほほほ。
Commented by hideonoshogai at 2008-11-04 22:12
シャコンヌの簡易バージョンみたいな、アレンジがもしあったら、弾き易くて良いでしょうね。今度、アンサンブルの先生にそれとなく聞いてくださいませ・・。↑の讃美歌は確かに、私らが弾くと単調になるかもしれないけど、それなりに美しい響きになるような気がします。

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